研究概要 |
潰瘍性大腸炎(UC)は難治性の疾患で、病変部には大腸上皮の細胞障害に密接に関与すると考えられるIFN-γ,TNF-αなどのサイトカイン遺伝子を発現したHLA-DR陽性活性化T細胞が存在し、特に慢性持続型(chronic-continuous type,CC-UC)の症例で増加していることを明らかにした。今回その生物学的機能を調べる目的で、継代培養したLPMC由来のT細胞株を用いて抗CD3抗体添加時のサイトカイン産生能および細胞障害活性を検討したところ、CC-UC由来のT細胞株は正常対照群のみならず再燃緩解型(relapsingremitting type,RR-UC)のT細胞株と比較しても高度のIFN-γ,TNF-αの産生能を有し、大腸上皮由来のHT-29細胞に対する細胞障害活性も有意に亢進していた。さらに継代培養T細胞株に対し各種薬剤(プレドニゾロン、5-アミノサリチル酸、サイクロスポリン)の影響を検討した結果、サイクロスポリンでは容量依存性に抗CD3抗体添加時のサイトカイン産生能とHT-29細胞に対する細胞障害活性の低下を認めたが、プレドニゾロンおよび5-アミノサリチル酸では抑制効果が認められなかった。次にUCの粘膜T細胞の活性化の機序を探るため、分離直後のLPMCを用いてT細胞レセプター可変領域遺伝子(Vβ1-Vβ20)をRT-PCR法により解析した。その結果LPMCでは末梢血リンパ球に比較してVβ2,Vβ5,Vβ6,Vβ7,Vβ8,Vβ12の使用が多くみられたが、CC-UC,RR-UCおよび正常対照群の間にVβのレパートアについて明らかな差を認めず、UCの粘膜T細胞の活性化がpolyclonalに起こっていることが示唆された。またUCの腸管局所における炎症性サイトカイン産生を検討したところIL-8,G-CSF,TNF-α活性が増加し、活動期のUCのLPMCではIL-6/IL-6receptor systemの発現も亢進していた。flow cytometryによる解析でIL-6は粘膜T細胞におけるIL-2Rなどの活性化マーカーの発現を誘導することが明らかになり、これらの炎症性サイトカインが本症の病変局所での粘膜T細胞の活性化に重要な補助因子として働いている可能性が推測された。
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