研究概要 |
食欲の調節に関しては,グルコース,各種の代謝物質,ペプチドやホルモン,神経伝達物質等が調節物質として働いていることが解明されてきた.その中で,脂質も重要な調節因子と考えられてきた.実際,グルセロール,遊離脂肪酸等の脂質の代謝物質は食欲の調節に重要であることが明らかとなっている.しかし,一番単純で重要な“経口的に脂質を摂取した後の,満腹感がなぜ生じるか?"という点に関しては,解決されていない点が多い.その満腹機構については,吸収前に十二指腸粘膜の受容体を介する,摂取した脂質のエネルギー量に応ずる等の報告がなされているが,いずれもそれだけでは十分な説明ができない.我々は以前に脂質の吸収後に小腸内の合成とリンパ管への移送が増加するアポ蛋白A-IVが,摂食中枢を介して脂質の経口摂取後の食欲抑制に重要な働きをする可能性を示してきた.このことは,脂質摂取後の食欲抑制が,従来考えられてきたように吸収前の因子や摂取エネルギーにのみ依存するのでなくて,脂質が吸収された後の因子が食欲抑制に重要であることを示唆している.本研究において脂質吸収後の摂食抑制に吸収後の因子が重要であることが判明した.なかでも脂質摂取後に小腸での合成とリンパ管への移送が増加するアポ蛋白A-VIが重要な働きをすることを解明した.作用部位としては食欲中枢である視床下部介する可能性が高いことが判明した.さらに,遺伝性肥満ラットであるZucker肥満ラットではアポ蛋白A-IVによる摂食抑制効果が正常ラットに比して減弱することが判明し,遺伝性肥満の一因として脂質摂取後の食欲抑制機能の異常が関与する可能性が考えられた.
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