研究概要 |
ヘリコバクター・ビロリ菌(Hp)はヒト組織学的慢性胃炎の主たる原因菌として,さらに慢性萎縮性胃炎,腸上皮化生を介して分化型胃癌発症のコファクターと考えられている.胃炎病態の形成には細菌自身の種々の毒性因子に加えて,感染宿主の炎症反応,免疫反応が重要な役割を演じている. 本研究においては,H.pylori感染に伴う組織障害機序としての自己免疫の関与の一端を明らかにすることを目的とする. H.pylori菌に熱ショックを与えると,H.pyloriの66kDa蛋白の発現が著しく増強する.その蛋白のアミノ末端シークエンスから,HSP60ファミリーに属する熱ショック蛋白であることを明らかにした.この精製蛋白に対するウサギ抗HSP66抗体を作成し,H.pylori感染胃粘膜におけるHSP66の局在を免疫組織学的に検討した.H.pyloriの同定は組織を用いた迅速ウレアーゼ法,PCR法によった.H.pyloriの組織内分布を明らかにするため,隣接組織切片を用い,抗H.pyloriモノクローナル抗体(CP2)による免疫染色もあわせて検討した.組織学的慢性胃炎組織30症例,胃潰瘍組織22症例を対象とした.H.pylori陽性組織学的胃炎25例中,5例(20.0%)の胃粘膜上皮細胞にHSP60の局在を認めた.H.pylori陽性胃潰瘍22例中では,5例(22.8%)にHSP60の発現を認めた.両群での陽性率に差違は認めなかった.陽性症例が少ないため統計学的検討は困難であったが,HSP60陽性組織は組織学的胃炎のgradeが高い症例が多数を占め,胃炎の程度との相関がうかがわれた.次年度は浸潤炎症細胞の同定および細胞障害機序の解析が必要である.
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