研究概要 |
H.pyloriは組織学的慢性胃炎の主たる原因菌として、さらに慢性萎縮性胃炎、腸上皮化生を介して分化型胃癌のコファクターと考えられている。胃炎病態の形成には細菌自身の種々の毒性因子に加えて、感染宿主の炎症反応、免疫反応が重要な役割を演じている。本研究においては、H.pylori感染に伴う組織障害機序として自己免疫の関与の一端を明らかにすることを目的にする。 H.pylori菌に熱ショックを与えるとH.pylori66KDa蛋白の発現が著しく増強する。その蛋白のアミノ末端シークエンスから熱ショック蛋白(HSP)60ファミリーに属する熱ショック蛋白であることが明らかにされた。精製蛋白に対する家兎抗血清を作成し、H.pylori感染胃粘膜における熱ショック蛋白の発現、局在を免疫組織学的に検討した。組織学的慢性胃炎組織40症例、胃潰瘍組織34症例を対象とした。H.pylori陽性組織学的慢性胃炎組織では8症例(20.0%)、胃潰瘍組織では8症例(23.5%)の上皮細胞に熱ショック蛋白の発現をみとめた。胃粘膜上皮細胞間の一部にはリンパ球の侵入がみとめられ、それらはCD8陽性のT細胞ではあるが、γ/δT細胞であるとの確証は得られなかった。したがって、上皮細胞の胃粘膜からの除去の際の標的分子として熱ショック蛋白が認識されている可能性は低い。一方、検討したH.pylori陽性患者のすべての血清に熱ショック蛋白に対する抗体が検出された。最近ではH.pyloriおよび胃粘膜上皮細胞に共通に発現される抗原としてLewisX,LewisY抗原が報告され,これらに対する抗体も感染患者血清中に検出される。これらの意義も不明である。最近の報告では熱ショック蛋白は細胞障害に対する防御機構として機能する可能性も指摘されている。熱ショック蛋白の障害標的分子としての意義については培養細胞系を用いて確認される必要がある。
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