研究概要 |
癌の浸潤・転移の最初のステップには,癌組織から癌細胞が解離することが必要であり,その過程にカルシウム依存性の細胞間接着分子であるE-cadherin(E-cad)の機能低下が関与する。最近,E-cadの機能を制御する因子として細胞内裏打ち蛋白であるcatenins(α,β,γ-catenin)の存在が示され,cateninの異常がE-cadの接着機能低下を起こす可能性があるが,その詳細な機構は不明であった。 申請者らはこれまで,E-cadの発現が正常であるにもかかわらず,細胞間接着が失われているスキルス胃癌細胞(HSC-39)において,新たなE-cad機能障害の機序としてβ-catenin遺伝子のN側ドメインの部分deletionを見い出した。 平成7年度の研究においては,申請者の教室で保有しているHSC-39以外の培養スキルス胃癌細胞株4株(OCUM-1,KATO-III,NUGC-4,JR-1)を用いて,E-cadの細胞接着機能およびβ-cateninの変異の有無を検討した. その結果,スキルス胃癌細胞株では4株ともカルシウム依存性の細胞接着能は消していた.そのうちの3株(OCUM-1,NUGC-4,JR-1)では,E-cadの翻訳レベルでの発現低下が存在し,Southern blotによるβ-catenin遺伝子の検討ではいずれも異常がなかった.しかし,KATO-III細胞ではb-catenin遺伝子のrearrengementおよびamplificationが存在することを見い出した.また,HSC-39に野生型β-catenin遺伝子を導入し,得られたtransfectant(HSC-39b)を用いてb-cateninの機能について検討を行った。その結果,HSC-39親株は浮遊細胞であるが,HSC-39β細胞ではcell compactionが回復し,culture dishへの付着性が出現し,また,HSC-39β細胞の増殖曲線を検討したところ,HSC-39bの増殖は親株に比べ70%抑制されていることが明らかとなった。
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