E-cadherinはadherence junctionに存在するカルシウム依存性の細胞間接着因子であり、その機能低下は癌細胞の転移・浸潤をもたらすことが明かにされている。これまで我々は、胃癌細胞株HSC-39におけるE-cadherin依存性細胞接着の消失が、その裏打ち蛋白であるβ-カテニンの部分欠失に起因することを見い出し、E-cadherinの機能にβ-カテニンの存在が必須であることを報告した。本研究では、高い浸潤性の増殖を特徴とするスキルス胃癌細胞を対象にβ-カテニン遺伝子の発現と機能について検討を行った。その結果、胃癌細胞株KATO-IIIにおいて、β-カテニン遺伝子のrearrangementを伴うamplificationが検出され、同細胞のE-cadherin機能障害にもβ-カテニン異常が関与すると考えられた。また最近、β-カテニンが癌抑制遺伝子APCの産物やErbB2と結合することが示され、E-cadherinは単に細胞接着のみならず細胞増殖制御にも関与していることが想定されている。そこで次に、HSC-39に対して野生型β-カテニン遺伝子を導入することで、細胞接着や細胞増殖能の変化に及ぼす影響を検討した。その結果、野生型β-カテニン遺伝子を導入したHSC-39/βは、形態学的に親株が浮遊細胞であるのに対しcell compactionを示す付着細胞に変化し、E-cadherin依存性の細胞接着が回復することが明らかとなった。さらに、HSC-39/βの増殖能、足場非依存性増殖およびinvivoでの造腫瘍性は親株に比して明らかに低下した。また、HSC-39/βにおいてG1/S移行を抑制するcyclin-dependent kinase inhibitorsのp21およびp27の発現量が有意に増加していた。これらの結果から、一部の胃癌細胞においては、β-タテニンの異常がE-cadherinを介した細胞接着の消失の原因となるとともに、細胞増殖抑制シグナルの異常をも惹起する可能性が示唆された。
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