肝個体発生時における細胞間のコミュニケーションを担うgap結合と、胎児蛋白(AFP)および成人蛋白(ALB)の発現変化を観察し、gap結合形成の細胞分化への関わりについて検討した。 ノーザンブロット法によるgap構成蛋白connexin(Cx)32mRNAの発現は、胎生後期から既に見られ、序序に増加し、Cx26mRNAの発現も既に胎生後期に見られ、生直後にピークを認め、一時減少、その後漸増した。胎生後期の肝組織では、肝細胞と造血細胞が混在し、細胞間は粗で、免疫蛍光法によるCx32陽性班は粗大で、Cx26班と同様散見されるのみであった。インサイツハイブリダイゼーションや免疫組織化学法でAFPの発現を観察すると、すべての肝細胞でみられ、ALBの発現は一部の細胞で認めた。生直後Cx32、Cx26陽性班は増加し、電顕的にgap構造を認めた。なおAFPはすべての肝細胞で発現を認めるが、減弱し、ALBの発現はすべての肝細胞に見られた。生後1週目以後には、Cx32陽性班はすべての肝細胞に多数みられ、Cx26班は門脈周囲肝細胞のみに認め、超微形態的に数多くのgap構造が観察された。AFPは中心静脈周囲の一部肝細胞のみに、ALBはすべての細胞に、とりわけ門脈周囲肝細胞に増強して観察された。 以上の事から、肝個体発生時のgap結合はAFPの発現がALBにスウィッチされる時期や領域に一致して形成、発達し、肝細胞分化と密接に関与している事が示唆された。このことは、癌細胞にgap構成蛋白Cxを強制発現させれば、AFPの発現がALBにスイッチされ、gap形成は癌の分化誘導に関与し、肝癌細胞にCxの遺伝子を導入・発現させる事は、肝癌の治療に有用と考えられた。
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