本研究では、成因不明の急性肝障害症例、すなわち明かな薬剤性、アルコール性、自己免疫性肝障害と急性期の血清抗体検査でA、B、C型ウイルス肝炎が除外された、いわゆる非A非B非C型肝炎の症例を対象とした。初めに、これら症例の保存血清を用いて、PCR法レベルで、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)の存在を否定するために、HBV-DNAに対してはmajor S領域、HCV-RNAに対して5'非翻訳領域の増幅をnested PCRにより、各々試みた。その結果、対象となった17症例でHBV-DNAは検出されなかったが、HCV-RNAが4例で検出され、C型急性肝炎であることが判明した。また、PCR法によるウイルスゲノム検出の検討はA型、B型急性肝炎症例を対照として行ったが、血中のウイルスは微量で、経過と共に急速に消失することが明かとなり、血清の採取時期と効率のよい核酸抽出法の採択が重要であることが判った。次に、非A非B非C型肝炎として絞り込まれた症例のうち、急性期の残存血清量等により2例の劇症化例を含む10例を対象に、話題となったG型肝炎と通常のHBVマーカーが検出されないサイレントB型肝炎の関与について検討を行なった。G型肝炎については5'非翻訳領域とヘリカーゼ領域でnested RT-PCR法にて検出を試みたが、全例で増幅はみられなかった。一方、サイレントB型肝炎については、major S領域では全例陰性の結果であったが、検出感度等を考慮し、プレコアを含む領域で再度nestedPCR法により検出を試みたとろ、2例の劇症化例を含む8例において増幅がみられた。よって、成因不明の急性肝障害患者血中の広範囲なウイルスゲノムの検出法の確立を目指し、ヘルペス属ウイルスのポリメラーゼ領域を中心にPCR法による解析を行う当初の計画は途中で変更されたが、それに代わりサイレントB型肝炎がその主因であることが明らかとなった。
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