腸管での食物消化には膵酵素が不可欠で、その消化段階に応じ胃液や膵液分泌は微妙に変化している。本研究では、摂取された栄養素により消化液分泌や消化管ホルモンの遊離がどのように制御されているのかを明らかにする。平成7年度は腸管内栄養素として脂肪、平成8年度は蛋白質をとりあげ、これらの消化過程と胃液、膵液分泌の関係を中心に研究をすすめた。 1.ラット胃内ペプトン灌流下に、十二指腸へ中性脂肪、リパーゼ処理の中性脂肪、脂肪酸を投与し胃酸分泌に対する影響を観察した。十二指腸内脂肪投与により酸分泌とガストリン遊離は有意に抑制され、膵液排除下ではリパーゼ処理脂肪と脂肪酸にのみ抑制効果を認めた。腸管内脂肪による胃酸分泌抑制効果にリパーゼによる脂肪消化の必要性が示唆された。 2.ラット腸管に長鎖、中鎖脂肪を投与し、膵液分泌とコレシストキニン(CCK)遊離を比較した。長鎖脂肪は膵液排除下では膵刺激性がなく、膵液やリパーゼ処理によりCCKの遊離と膵液分泌の増加を認めた。中鎖脂肪は膵液存在の有意にかかわらず膵液刺激性はなく、リパーゼ処理にのみ弱い膵刺激性を認めた。腸管内脂肪の膵刺激性は脂肪の炭素数によること、リパーゼによる脂肪消化が膵刺激性に重要であることなどが明らかにされた。 3.麻酔下のラット十二指腸にカゼイン蛋白、混合アミノ酸を投与し、膵液分泌と血中セクレチン、CCK濃度の変化を観察した。カゼインではCCK遊離が促進し酵素分泌が増加し、アミノ酸ではセクレチン遊離が促進し重炭酸分泌の増加を認めた。以上より、腸管内での蛋白消化に応じ消化管ホルモンの遊離が変化し、膵液成分に変化が生じることを証明した。 4.ラット胃内ペプトン灌流下で、十二指腸にアミノ酸を投与し胃酸分泌やガストリン遊離に対する効果を検討した。十二指腸にアミノ酸を投与すると胃酸分泌やガストリン遊離は有意に抑制された。この抑制効果が抗セクレチン血清によるimmunoneutralizationにより減弱したことから、内因性セクレチンが重要な役割を果たしていることを証明した。
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