研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)の非構造蛋白領域(NS)とくにNS3の生物学的意義を解明する目的で,平成7年度には,HCV-NS3遺伝子導入をマウス正常細胞(NIH3T3細胞)に行い,導入細胞には明瞭な細胞増殖性が発現するとともにコロニー形成も亢進することを明らかにした.平成8年度には,このHCV-NS3遺伝子導入細胞に発現する細胞形質転換の生物学的特徴を検討し,以下の成果を得た.1.HCV-NS3導入細胞に発生した細胞形質転換の性状をさらに追求する目的で,遺伝子導入を行ったNIH3T3細胞をヌードマウスに接種してin vivo細胞増殖能を調べた.ヌードマウス皮下にpRcHCNS3-5'導入細胞を接種すると,細胞接種の2週後には10匹中2匹に,また6週後にはすべての接種動物に腫瘍形成が生じた.一方,pRcHCNS3-3'導入細胞を接種した群では,細胞接種の2週後には腫瘍形成動物はまったく認められず,ようやく6週後に5匹中1匹のマウスに腫瘍形成が見られたに過ぎなかった.なお,皮下に発生した腫瘍はfibrosarcomaであり,この組織中にはHCV-DNAの存在がPCR法によって確認された.2.HCV-NS3の腫瘍原性部位を解析する目的で,HCV-NS3導入遺伝子を種々に失欠させて細胞の形質転換能を追求した.遺伝子導入NIH3T3細胞の増殖能は,pRcHCNS3-5'導入細胞および2つのアミノ末端側導入失欠株ではいずれもpRcHCNS3-3'導入細胞に比し明らかな亢進が認められた.したがって,HCV-NS3の細胞形質転換能の発現は,HCV-NS3のアミノ末端側の1011アミノ酸から1095アミノ酸までの間に存在することが示唆された.以上の成績は,HCVの非構造蛋白領域のNS3領域,とくにそのアミノ末端側領域には細胞機能の転換作用が存在し,これが細胞内に導入されると,導入細胞は形質転換によって細胞増殖能を発揮し始める可能性を示唆している.
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