研究概要 |
喘息死は臨床的に重要であるが、これまでは発症メカニズムが不明だった為、多くの研究にもかかわらず喘息による死亡数はむしろ増加傾向にあると言われている。我々は最近,重症喘息発作により人工換気の経験を有する患者(Near-fatal asthma患者)では、低酸素に対する換気反応及び呼吸困難感が低下していることを見いだし、この二つが喘息死発症の重要な要因であることを報告した(Kikuchi et al.New Engl J Med 1994;330:1324).さらに我々は、これを引き起こす素因として末梢化学受容器(頚動脈体)の機能が低下している可能性を提唱した。本研究ではこの可能性をさらに検討し、喘息死発症と呼吸困難感及び低酸素換気反応の関係、さらには頚動脈体機能低下との関係を調べた。本研究において次のような研究結果が得られた。 (1)Positoron Emission Tomography(PET)による抵抗負荷時大脳賦活部位の測定においては、まず健常人に於いて、帯状回、視床、前運動野等が賦活されるが、Near-Fatal-Asthma患者においては同じ部位の活動が低い可能性が示唆された。 (2)抵抗や低酸素、炭酸ガス等を負荷したラットに於いてC-fos oncogene発現をin situ hybridization(c-fos mRNA測定)および免疫染色法(c-fos蛋白測定)にて測定した実験では、帯状回、視床、等と共に、視床下部、橋等において発現がみられ、これらの部が呼吸困難や呼吸負荷時の上位脳による呼吸の調節に関与していることが推定された。 (3)健常人7名において呼吸刺激剤:ドキサプラムを点滴静注(2.0mg/kg/hr)投与中に低酸素換気反応および抵抗負荷時の呼吸困難感の測定を行い、生理食塩水を点滴静注投与した時と比較した。ドキサプラム投与時には低酸素換気反応は増加し抵抗負荷時の呼吸困難感も有意に増加した。更に抵抗負荷時の呼吸困難と低酸素換気反応には有意の相関があり、頚動脈体機能は呼吸困難の発生要因として関係している可能性が考えられた。
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