咳の発生機序解明とその制御を研究する目的で、24時間連続咳測定装置の開発を試みた。咳は特有の音波として軽量小型マイクロホンで記録可能で、かつ発生する咳の数も計算可能であった。更に携帯可能なバッテリ-も開発し、ほぼ実現可能に見えたが、服や皮膚とマイクロホンによって生ずる摩擦音が咳によって生ずる音と性質が極めて類似していることが判明した。この為に、マイクロホンを咳検出器として用いることは困難であり、現在加速度計を検出器として用い、安定性と弁別性を検討中である。本機器作成と平行して、咳発生の機序に関する検討を行っている。覚醒モルモットにサブスタンスP(SP)の分解酵素阻害剤を投与すると咳が発生し、その咳は特異的SP受容体阻害剤で抑制されることより、内因性SPが咳発生物質であることを示した。また、SPは気道収縮時やACE阻害剤によって発生する咳の主要原因物質であることを示した。更に、高齢者で誤嚥性肺炎を起こす人では、咳および嚥下反射が低下しており、夜間にその低下が顕著であった。かかる誤嚥性肺炎罹患患者に高張食塩水を吸入して喀痰を集め、喀痰中のSP濃度を測定すると、同年齢の健常者に比べて、SP濃度が約1/7に低下していた。このことから、気道のSP濃度の低下が咳反射の低下をきたし、その結果誤嚥性肺炎をきたすのではないかと推測された。以上の基礎的検討を踏まえて、咳測定装置完成の時には、大集団を対象として咳の制御を検討していく予定である。
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