咳は呼吸器疾患で最も頻度の多い症状であると共に、咳の減弱は肺炎発生の原因となる。24時間咳モニターシステムは咳の発生機序を解明し、制御するのに必要なものと考えられる。胸骨上部にマイクロホンを置き、咳を発語と弁別して認識するシステムを開発し、電源内蔵の携帯型咳測定装置を作製し咳発生数を測定した所、衣擦れの音と咳が同一周波数を有し、咳と認識された。そこで、衣擦れによる誤作動を是正する為、現在マイクロホンに代え、加速度計を用いて検討中である。 咳の発生機序解明の為、モルモットを用いて、各種咳刺激物質や気道収縮により発生する咳を調べた所、発生する咳の大部分がカプサイシンによるサブスタンスP枯渇、又はサブスタンスP拮抗剤により抑制された。従って、咳の発生に気道C-線維由来のサブスタンスPが関与することが強く示唆された。サブスタンスPは強力な血漿成分漏出作用を有し、咳受容体であるrapidly adapting receptor周囲に浮腫を生ずることにより、咳刺激に対する被刺激性を高め、咳を発生するものと推測された。では人においてサブスタンスPが咳と関連するか否かを検討する為に、咳刺激に対する反応が鈍化している嚥下性肺炎罹患患者と同年齢の健常人で喀痰中サブスタンスP濃度を測定すると肺炎罹患患者で喀痰中サブスタンスP濃度が著しく低下していた。喀痰は気道内腔周辺の物質を反映し、そこはサブスタンスPが密に分布する場所故に、気道内サブスタンスP量低下は咳反射の低下、そして肺炎の発生と関連すると考えられた。サブスタンスPの生成はドーパミン含有神経による制御されている可能性があり、現在ドーパミンによるサブスタンスP量の調節及び咳の発生との関係につき検討中である。
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