成人の風邪の主原因であるライノウイルス感染は気管支上皮の炎症を生じて気管支喘息の増悪を引き起こすと考えられているが、喘息増悪の機序は明らかではなかった。本研究では喘息増悪の原因となる気道炎症の機序を解明するため、ライノウイルス感染の標的となる気道上皮の機能変化を調べた。初めに、それまで困難であった気道上皮細胞に対するライノウイルス感染系を確立した。ヒト気管上皮を滅菌試験に培養してライノウイルスを感染させ、33°Cにて回転培養すると、上皮細胞内でライノウイルスが増殖して培養液中に放出される。このようなライノウイルス感染系は感染の再現性に優れ、また上皮細胞内および培養液中へのライノウイルス増殖量および放出量とも多い特色があった。ライノウイルス感染上皮細胞はIL-1β、IL-6、IL-8、TNF-αのメッセンジャーRNA (mRNA)が増加し、また培養液中にもこれらのサイトカインが増加した。培養上皮細胞は接着因子ICAM-1のmRNAを発現するが、ライノウイルス感染に伴ってICAM-1mRNAが増加した。上皮細胞に発現するICAM-1はライノウイルスの受容体の主体をなすと報告されている。本研究のライノウイルス感染系において、ICAM-1抗体であるCD54およびRR1/1を前処理するとライノウイルスの培養液中放出量が著明に減少し、また、ライノウイルス感染に伴うIL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α等のサイトカイン放出が抑制された。これらの結果は培養ヒト気管上皮細胞に発現するICAM-1を受容体としてライノウイルスが感染、増殖して培養液に放出され、同時にサイトカイン合成放出量が増加することを示している。これらの炎症性サイトカインと上皮細胞に増加するICAM-1がライノウイルス感染で生ずる気道炎症に関与する可能性が示唆された。
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