研究概要 |
1.申請者の安岡劭が慢性気道疾患患者の喀痰中に見出したトリプシン様酵素、ヒト気道トリプターゼ(HAT)を、喀痰から精製する方法をさらに検討し、精製法を一応確立した。1リットルの喀痰から約10μgのHATが得られた(以上投稿中)。帝人生物工学研究所との共同研究で、HATの遺伝子(cDNA)のクローニングに成功し、その塩基配列からHAT前駆体(precursor HAT)のアミノ酸配列を推定することができた。その結果、HAT前駆体の分子量は約47,000で、我々が精製したHAT(分子量27,000)は前者が活性化された成熟型(mature HAT)に相当すると推定された(以上論文作成中)。ついで細胞工学的手法で大腸菌によるrecombinant HATの合成に成功した。 2.native HATおよびrecombinant HATのインフルエンザウイルスの増殖(感染性)に対する影響を、感染細胞としてMDCK細胞を用いin vitroで検索した。対照として用いた膵トリプシンが文献に一致して本ウイルスの感染性を増強したのに対し、両HATともに本ウイルスの感染性を抑制した。この作用機構はいまだ未解決である。 3.native HATのN末端20個のアミノ酸配列を持つペプチドを合成し、これに対する抗体を家兎を免疫することにより作成した。Western blot法でこの抗体がHATに特異的に結合することが判明したので、この抗体を用い免疫組織化学的な手法で呼吸器系におけるHATの局在を検索した。その結果、この抗体と反応する細胞は、気道粘膜下の漿液腺に存在した。この成績からHATは気道に分泌腺から粘膜面に分泌されると考えられた。
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