研究概要 |
肺癌発生過程において、前癌病変としての異型上皮(hyperplasia, metaplasia, dysplasia)に生じる遺伝子異常を評価し、さらに、癌化した組織との病理生物学的特徴を比較検討するために本研究を開始した。しかし、非腫瘍部分における前癌病変がけっして多くはないこと、癌細胞近傍における異型については癌病変か前癌病変かの識別が困難である等の問題点が明らかになってきた。そこで、まず経気管支生検組織における上皮異型を採取し、多数例の異型組織で解析を加えることとした。現在までに、計171例(肺癌115例、異型上皮56例)の検体についてp53免疫組織染色の結果を得た。癌組織においては、63/115(55%)が陽性を示した。一方、56例の異型上皮におけるp53過剰発現の頻度は41%であった。異型の程度による発現頻度は、hyperplasia 4/19(21%), metaplasia 10/19(53%), dysplasia 9/18(50%)であった。ただし、癌組織の多くが均一で強い染色性を示したのに対し、異型上皮では、異型の程度に応じたintensityがみられ、かつ、細胞ごとに染色性に差が大きかった。正常気管支上皮にはp53蛋白の過剰発現は認められなかった。上皮の異型を呈した症例の中には、慢性炎症性肺疾患の症例も15例含まれていた。現在、これらの異型上皮と癌組織においてmicrodissection法を用いたDNA採取ならびに、PCR法による変異の有無を確認中である。
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