研究概要 |
びまん性汎細気管支炎(DPB)は,呼吸細気管支およびその周囲の特異的炎症と,進行に伴う近位の細気管支・気管支への病変の進展により,難治性緑膿菌性下気道感染症や呼吸不全を呈し,不良の転帰をとる疾患である.本症の発症に,何らかの遺伝学的異常の関与が推定されているが,その機序は未だ不明である.近年,同様の臨床像を呈し,Caucasus系白人に多い嚢胞菌性線維症(cystic fibrosis,CF)の遺伝学的および分子生物学的異常が明らかにされ,本症が上皮細胞の細胞膜のapical側に主に分布しcAMPで制御されるCl^-イオンチャンネル(CFTR)をコードするCFTR遺伝子の突然変異に起因する疾患であることが解明された.このように,DPBも気道上皮細胞に特異的・選択的に発現されるCFTRやCC10などの蛋白分子の異常により発症する疾患である可能性が示唆される.これまでCFTR遺伝子では400種以上の突然変異が報告されているが,東洋人におけるCFの発症頻度はきわめて低い.しかしながら,これまでに報告のないCFTR遺伝子の突然変異がDPB発症に関与している可能性も否定できない.一方,CC10は細気管支上皮細胞の大半を占めるClara細胞から主に分泌される蛋白で,気道での抗炎症作用に関与していると考えられているが,疾患に対する関与は不明である.平成7年度には,CFTRおよびCC10遺伝子に関し,DPB患者における点突然変異を含む構造上の異常について検討を行った.まず患者の同意を得た後,末梢血より多核白血球を分離し染色体DNAを抽出した.CFRT遺伝子については欧米人のCF発症の原因となる多種のCFRT遺伝子の突然変異のなかで,ΔF508を含む頻度の高い32変異を選択し,これらの突然変異を特異的に認識するオリゴヌクレオチド(ASO)を合成した.DPB患者22症例より抽出したDNAを鋳型として,それぞれの変異部位を特異的に増幅するプライマー対を用いてPCR増幅を行い,その産物をスロットブロットでフィルターに固定後^<32>Pラベルした先の個々のASOとハイブリダイズさせ,突然変異の有無をオートラジオグラフィーで解析した.その結果,DPB22例全例において,genotpe上検討対象とした32種類のCFTR突然変異は全て陰性であった.また対照とした他の気道疾患においても同様にCFTR遺伝子変異は認められなかった.さらに,新たに判明した日本人CF症例のCFTR遺伝子変異(D979A)についてもその有無を検討したが,やはりDPB患者にはこの変異は検出されなかった. 一方CC10遺伝子の変異の有無について,DPB患者のゲノムDNAないし気道上皮由来のmRNA(cDNA)を用いて解析を行ったが,CD10のアミノ酸をコードする塩基配列にはDPB患者において全く異常は認められず,わずかにエクソン1の5UTRとイントロン1の3′イントロン-エキソン移行部にそれぞれ1塩基置換の変異を認めたのみであり,splice異常も否定的であった.現在,さらに気道上皮細胞において発現されるmRNA(cDAN)のfingerprintをDPB患者と健常者の間で比較検討するため,同意を得た後DPB患者の気道上皮細胞よりRNAを抽出し,mRNAのcDNAへの逆転写後, PCR増幅によるdifferential displayを検討中である.
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