アルツハイマー病(AD)脳を特徴づける病理変化のうち、老人斑、脳血管におけるβアミロイドの沈着は、ADの最初期から出現し、その病因と最も深く関連した病変と考えられている。近年Aβのカルボキシル(C)末端長のわずか2残基の相違が、Aβの自己凝集性に大きな影響を及ぼすことが示され、老人斑に蓄積するAβは細胞の分泌する主要分子種であるAβ40ではなく、凝集性の高いAβ42(43)が主体であることも明らかになった。さらに脳内に蓄積するAβのアミノ(N)末端側にもイソ体化、ラセミ体化、ピログルタミン酸化などの修飾、N末端の多様性などが見出され、凝集性との関連も論議されつつある。 本研究においてはまずAβの異なる長さのC末端とN末端、またラセミ化、イソ体化、ピログルタミン酸化などの修飾を特異的に認識する抗体を系統的に作製し、AD組織上に分布する各種のアミロイドに含まれるAβを免疫組織化学的に同定した。次にこれらの抗体を用いて、様々な修飾を受けたAβ分子種を免疫化学的に定量した。その結果、(1)AD及びDown症(DS)脳に初期に蓄積しはじめるびまん性老人斑(diffuse plaque;DP)に蓄積するAβのC末端はAβ42(43)であり、N末端は3位のグルタミン酸が環化したN3(pyroGlu)もしくは1位のアルパラギン酸(NlAsp)で始まる分子種が主体であり、後者はラセミ化、イソ体化を受けた分子種と標準型のL-Aspの両者が混在すること(2)ADおよびDS脳に蓄積したアミロイドの蟻酸抽出物のELISAによる解析から、脳実質に最も優位に蓄積するのはAβ3(pyroGlu)-42(43)であることが判明した。今後、βアミロイド蓄積を招来する過程がいかなる形で細胞死を生じるのかについての検討が必要と考えられる。
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