中心溝をはさんで前後に位置する運動野、感覚野の随意運動に対する役割を非侵襲的に明らかにするには、空間的、時間的に解像度の優れた方法でとらえる必要があり、脳磁場計測は有望視されている方法である。感覚刺激として制御簡便な電気刺激は磁場を乱しやすい為に従来の研究では限られた方法でしか利用できていなかったが、2年間の本研究において、電気刺激装置を用いての安定した脳磁場記録方法を確立し、運動と感覚の相互影響を評価した。 1。電気刺激による磁場の乱れをとり除く為に種々の機械的な接地を検討し、十分な幅をもった接地電極を刺激電極より近位側周囲を巻絡し、刺激アーチファクトをほぼ完全に除去することに成功した。 2。この方法を用いて、正中神経に種々の間隔の対刺激(条件刺激-試験刺激)を与え、体性感覚誘発脳磁場(SEE)の回復曲線を評価した。対刺激間隔が20-60ミリ秒の間は、試験刺激後40-60ミリ秒の成分の抑制が認められたが、それ以降の成分には大きな変化は認められなかった。 3。脳磁場における準備脳磁場は、脳波の準備電位に比較して開始が遅いため、種々の運動間隔で運動関連脳磁場記録を検討し、1.5秒の間隔が確保できれば、ひとつの随意運動としての反応を記録できることが確かめられた。 4。一側の親指でボタン押しを3秒に1回程度行っている最中に、ランダムな時間間隔(0.9-1.3s)で同側正中神経に電気刺激を与え、両者の時間関係毎に別個に正中神経SEFを加算平均した。ボタン押し後900ミリ秒以内に電気刺激が来た場合のSEFの100ミリ秒以内の成分は抑制されるが、ボタン押しの前900ミリ秒以内の電気刺激に対するSEFでは大きな変化は認められなかった。以上は、一次体性感覚野の感度は、運動準備状態においては大きく変化せず、運動によってもたらされる干渉によって感度低下が引き起こされていることを示している。
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