研究概要 |
ミッドカイン(Midkine,MK)は、胚性癌腫細胞からレチノイン酸誘導遺伝子として見出された、増殖、分化促進蛋白であるが、神経栄養因子としての作用を持ち、神経細胞脱落、変性を予防し、組織障害からの修復機能をもつ。私達は、ラット脳梗塞周囲にMKが発現していることを既に報告したが、脳梗塞発症2日後では、脳梗塞周囲でglial fibrillary acidic proteinとMKが染色性で完全に一致し、アストロサイトが作成していると考えられた。4日後では、neuropilが強く染色され、免疫電子顕微鏡写真では腫大したアストロサイト突起にMKが発現していた。MK遺伝子の上流にはactivator protein-1(AP-1)結合部位が存在し、AP-1構成成分のC-JUN,C-FOSは、脳梗塞急性期に発現するので、AP-1により発現するのではないかと考えられた。胎児期脳では、脳表在層に神経細胞が遊走するその先端にMKが強く発現しており、最後には辺縁層にのみ発現が残った。マウス脳虚血痙攣で、島回、頭頂葉に発現が認められたが、すぐに大脳皮質分子層(アストロサイト層)のみにしか発現が認められなくなった。辺縁層と分子層とが一致している。これからもアストロサイトがMK合成に関与していることが推定された。C-JUN,C-FOSは、胎児期に発現する転写因子であるので、MKの胎児期発現は、レチノイン酸とともにAP-1にもよるのではないかと考えられた。MKは、ヒト脳梗塞剖検例でも発現していた。ヘパリンを血中に投与する(50単位/KG)と、血中にMKが遊離してくるが、内皮細胞のヘパラン硫酸に結合しており、脳梗塞急性期患者では、遊離MKが増加していた。ヒト脳梗塞でもMKが働いていることが判明したが、脳梗塞発症後7日までしか発現が認められなかったので、尚、持続的に投与していくことを検討すべきである。
|