抗カルジオリピン抗体は抗リン脂質抗体の1つで動脈・静脈血栓の原因として注目されている自己抗体である。抗カルジオリピン抗体陽性例での血栓発症の機序について諸説があるがいまだ不明である。我々は本抗体陽性患者血清が血管内皮細胞でのprotein Cの活性化にどのような影響を及ぼすかについて検討した。対象は本抗体陽性のSLE脳梗塞7例、本抗体陽性の非SLE脳梗塞3例、本抗体陰性の非SLE脳梗塞6例、脳梗塞を発症していない本抗体陽性と陰性のSLEそれぞれ14例と6例と正常コントロール6例で、それぞれの血清のIgG分画の精製をまず行った。次にヒト臍帯血管内皮細胞培養キットを用いて血管内皮細胞を培養し、confluent継代血管内皮細胞にそれぞれの患者血清から精製したIgG分画、protein C、thrombinを加えベリクロームプロテインの方法に従って合成基質を加え、protein C活性を測定した。protein C活性の測定は吸光度計を用いて行い、活性化の程度はIgG分画を加えた時と加えない時の吸光度の差を加えない時の吸光度で徐した値、すなわち吸光度の%変化率で表した。その結果、本抗体陽性のSLE脳梗塞患者では7例中5例でprotein Cの活性化が障害され、平均吸光度%変化率は-7.2%であった。本抗体陽性の非SLE脳梗塞患者では3例とも活性化が障害された。一方、本抗体陰性の非SLE脳梗塞、脳梗塞のない本抗体陽性と陰性のSLE患者では平均吸光度%変化率はそれぞれ+0.1%、-0.5%、+0.3%でprotein Cの活性化障害はみられなかった。正常コントロールでの平均吸光度%変化率は+0.6%であった。脳梗塞を発症した抗カルジオリピン抗体陽性例はすべてβ2-glycorotein I依存性であった。本検討ではIgG分画に含まれる抗カルジオリピン抗体は内皮細胞の表面でのthrombin、 protein C、thrombomodulinの相互作用を障害し、protein Cの活性化障害は脳梗塞の発症に関与していると考えられる。
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