実験には生後2カ月の雄砂ネズミ(若年群)および生後18-20カ月の雄砂ネズミ(老年群)を用いた。ペントバルビタール腹内腔麻酔下に頚部正中を切開した後、右総頚動脈および左外頚動脈を永久閉塞した。各群を脳血流測定グループ組織検討グループの二群に分け脳血流測定グループでは右頭頂頭蓋に直径5mmの小窓を作成し、レーザードップラー装置を用いて閉塞前後の脳血流量を測定した。組織検討グループでは脳血流量測定は行わず、3日間症状発現の有無を観察した後、無症状動物を閉塞1週間後、1カ月後、3カ月後に心腔内潅流して、脳の組織学的検討を行った。組織学的検討にはHE染色、LFB染色を用いた。若年群では、頚動脈閉塞後60%の動物の脳血流量が閉塞前値の50%以下で低下したが、残る40%の動物の脳血流量は50%以上に維持された。一方、老年群では70%の動物の脳血流量が閉塞前値の50%以下に低下し、残る30%の動物の脳血流量が50%以上に維持された。若年群、老年群いずれにおいても、脳血流50%以下に低下した動物は麻酔覚醒後に、痙攣、回旋運動、意識障害等の虚血症状を示し、3日間以内に死亡した。また脳血流量が50%以上に維持された動物は、若年群、老年群いずれも虚血症状を示さず、3日間以内に死亡するものはなかった。組織検討グループでは若年群の42%、老年群の36%が無症状であった。これら無症状群の1週間後の組織学的検討では、若年、老年いずれの群でも明らかな虚血性変化は見られなかった。1カ月後の検討においても、若年群では虚血性変化は見られなかった。一方、老年群では9匹中3匹の大脳皮質、および1匹の海馬CA1領域に散在性の神経細胞変化が認められた。3カ月後には若年群の8匹中1匹に、老年群の8匹中5匹に大脳皮質および海馬CA1領域の神経細胞変化が認められた。以上より、慢性的な脳低潅流状態が持続すると、若年動物では明らかな変化は見られないが、老年動物では神経細胞変化が生じることが明らかにされた。
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