(1)慢性覚醒犬の冠動脈内にNO合成阻害薬であるN-nitro-L-arginine(L-NA)を投与し、局所の内因性NO合成を阻害した。その環境下に10分間の冠動脈閉塞と解除を行い、その後の可逆的心機能障害(myocardial stunning)の時間経過を、同阻害薬を用いないcontrol状態との間で比較検討した。その結果、虚血局所のNO合成阻害が、myocardial stunningを増強することが明らかとなったが、その増強はL-NAの心筋血流におよぼす影響とは独立した機序によるものと考えられた。Myocardial stunningは、心外膜側に比して心内膜側で強いことも確認されたが、NO合成阻害によるその増強は、内膜側のみならず外膜側でも同様に認められた。すなわち、内因性NOは、虚血再灌流後のmyocardial stunningに対して防御的に作用していることが示唆された。その機序として、myocardial stunningの主要な機序であるcalcium overloadに対して、NO-cGMP系が抑制的に作用することが考えられた。 (2)麻酔開胸犬にpaired pacingを適用し、期外刺激後収縮増強(Postextrasystolic Potentiation:PESP)の現象におよぼす内因性NOの影響をL-NAを用いて検討した。後負荷を一定にした条件下で、L-NAの投与はPESPに有意な影響を与えなかった。外因性Caの投与はbaselineの増幅によりPESPを増強し、SRのCa放出を抑制するryanodineの投与は、PESPを減弱させたが、Ca投与はこれに拮抗した。外因性Caの投与は陽性変力作用を示すが、L-NAの前処置はこれに影響を与えなかった。しかし、ryanodineを併用するとわずかではあるが有意な増強効果が確認され、外因性Caの流入抑制機序の解除がその主体と考えられた。しかし、このような条件下でもPESPには影響がなく、同現象の主体がSRからのCa放出に基づくためと考えられ、内因性NOにはこれを修飾する効果はないと考えられた。
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