本研究において我々は、RR間隔、瞬時肺容量、左室圧、左室圧の一次微分、左室容積、左室エラスタンス、および交感神経活動の周期変動を同時に解析するシステムを開発した。さらにこれらの血行動態指標と交感神経活動との相互相関を検討するために、周波数伝達関数の解析システムの開発に取り組んだ。平成8年度には自律神経活動の急激な変動にも追従できる時間-周波数解析(wavelet変換)を完成させ、自律神経活動に応じて刻々と変化する血行動態の周波数特性を検討することが可能となった。解析プログラムの精度はシュミレーション実験により確認し臨床的検討に入った。1)筋交感神経活動の低周波成分:腓骨神経のマイクロニューログラフィにより記録した筋交感神経活動の0.1Hz近傍のスペクトルは、心拍・血圧変動と高いcoherenceを示し、交感神経活動に密接に関連していると考えられた。2)呼吸循環系の動的伝達特性:心カテーテル検査中に左室圧・容積を連続記録し、ランダム呼吸を外乱として加えたときの呼吸循環系の伝達特性を解析した。この結果、0.15Hz以上の最大左室圧の変動には胸腔内圧の直接的影響が大きく、0.15Hz以下では前負荷を介する呼吸の影響が大きくなることがわかった。さらに3)冠動脈閉塞中のに惹起される交感神経活動の亢進を検出すべく、経皮的冠動脈形成術(PTCA)中の心機能指標の瞬時スペクトルの推移をwavelet解析により検討した。急性冠閉塞による心筋虚血の発生に伴い心血行動態指標には0.1Hzの低周波の動揺が出現し、心筋虚血の解除により速やかに消失した。 かかる解析は、慢性心不全の病態を神経循環システムの破錠として統合的にとらえ、より本質的な治療法を確立する上できわめて重要と考えられる。
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