研究概要 |
人での側副血行血管発達の刺激が何であるかは判明していない。そこで、側副血行血管発達の刺激する血管新生増殖因子であるVEGF(血管内皮増殖因子),bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が心筋組織より遊離・分泌され心嚢液中に高濃度で存在し,心筋虚血に曝された心臓ではその濃度が上昇し血管新生に寄与するとの仮説のもとに以下の研究を実施した。不安定狭心症に対して冠動脈バイパス術を受けた15名と弁置換術などの非虚血性心疾患に対して開心術を受けた7名から心嚢液を採取し,VEGF,bFGFの濃度をそれぞれのモノクローナル抗体を使用しELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法で測定した。更に,心嚢液が実際に血管増殖を促進させるかを明確にするためにヒト内胸動脈の血管平滑筋細胞増殖に及ぼす影響を検討した。心嚢液中のVEGFは不安定狭心症では41.1±28.3(SD)pg/mlと非虚血患者の19.0±15.6pg/mlより高い傾向を示した。bFGFは1681±1320pg/ml vs.298±218pg/ml, P<0.05と不安定狭心症において有意に高値であった。対照のDay7での血管平滑筋細胞数は5.00×10^4であった。非虚血患者からの心嚢液では5.68×10^4と細胞増殖に大きな影響を与えなかったが,不安定狭心症からの心嚢液は7.63×10^4と細胞増殖を促進させた。不安定狭心症で発作が頻発し,緊急大動脈バイパス術を受けた患者の心嚢中はbFGF濃度は高値を示した。我々のデータは,虚血存在下にbFGFを冠動脈内に投与すると側副血行血管発達が加速されたとのイヌでの実験データをも支持するものである。以上より,ヒトの虚血心筋からは,bFGFが遊離され,側副血行血管成長に関与することが判明した。
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