研究概要 |
雄性Wistarラットの左冠動脈を結紮することで心筋梗塞を作成し、梗塞作成後4、8、12週目に血行動態を測定後、摘出した左室心筋の非梗塞域より、心筋アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性をCushmanらの方法で、アンジオテンシン・タイプ1(ATl)受容体結合能を125[Sar1,lle8]Angiotensin IIを用いて測定した。また、各々の遺伝子発現を逆転写酵素(RT)-PCR法で検討した。同時に、ACE阻害剤(Enalapril:3または15mg/kg/day)またはAT1受容体拮抗剤(E-4177:3または10mg/kg/day)の投与を行ない、梗塞後の心筋再構築に及ぼす影響を血行動態的かつ分子生物学的に比較検討した。また、従来より研究されている圧負荷肥大心と比較するため、腹部大動脈縮紮術を行い同様の検討を行い比較した。結果は以下の通りであった。右心室では梗塞後4、8、12週で、左心室残存心筋では8、12週で有意の肥大を認めた。梗塞を作成しなかったラットの心筋に比べ、心筋梗塞後の残存心筋のACE活性およびAT1受容体数は有意に増加しており、ACEとAT1受容体の遺伝子発現も明らかに亢進していた。高濃度Enalapril投与ではACE活性とその遺伝子発現の低下を、高濃度E-4177投与ではAT1受容体数の低下とACEおよびAT1受容体の遺伝子発現の低下を認めた。この時、両者の投与で左心室拡張末期圧は低下したが梗塞サイズは非投与に比し有意な差を認めなかった。このことは圧負荷肥大心と同様の変化であった。また、無治療心筋梗塞群では胸水貯留を全例に認め、心筋形質膜のNa^+-Ca^<2+>交換能の著明な低下を認めたが、これらもACE阻害剤またはAT1拮抗剤投与により改善をみた。以上より、心筋梗塞後の残存心筋は肥大を認め、これには心筋のレニン-アンジオテンシン系が深く関与していることが示唆され、更に、ACE阻害剤またはAT1受容体拮抗剤の投与で肥大が抑制ざれ、血行動態および分子生物学的にも改善を認めたため、このことが更に強く示唆された。これらの結果の一部は平成8年12月の国際心臓研究学会日本部会にて発表し、J.Mol.Cel1.Cardiol.Mol.Cell.Biochem.に掲載さた。
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