虚血性心疾患のなかでも不安定狭心症や急性心筋梗塞の病態の主体はプラークの破裂であり、解離を伴う出血であるが、最も大切なものは、冠動脈血栓である。近年、その病態に急性炎症が関与することが注目されている。最近、可溶型接着分子(soluble Intercellular Adhesion Molecule-1;sICAM-1、soluble P-selectin;sP-selectinなど)が人間の血液中に存在することが確認され、炎症との関連が指摘されている。本研究においては、心臓カテーテル検査時に冠静脈洞(CS)と大動脈基部(Ao)より同時に採血し得た不安定狭心症、安定労作狭心症、対照患者を対象として検討し、CSの値もAoの値も不安定狭心症において、安定労作狭心症や対照患者よりも高く、不安定狭心症においてはCSがAoに比し高値であった。不安定狭心症においては血管内皮側のICAM-1の発現が亢進しており、冠循環においてその亢進が著明であることが示唆された。冠攣縮およびpacing負荷による狭心発作前後での血漿sP-selectin値の変動の検討では、血漿sP-selectin値のCS-Ao較差は、冠攣縮性狭心症の発作前後では上昇したが、安定労作狭心症の発作前後および対照患者のacetylcholine注入前後では変化はなかった。このことから冠動脈攣縮によって冠循環でのsP-selectinも上昇するが、安定労作狭心症の虚血発作では上昇しないことも明らかとなった。従って、冠攣縮が冠循環において白血球の接着を誘導し、thrombinを生成することにより不安定狭心症や急性心筋梗塞を発生する可能性が示唆された。以上より、不安定狭心症や冠攣縮における冠循環においては急性炎症が関与すると考えられた。
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