A型(心房性)ナトリウム利尿ペプチド(ANP)およびB型(脳性)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は心臓から分泌されるいわゆる心臓ホルモンである。ANP、BNPの血中濃度は心不全の重症度に伴い著しく増加する。本研究は心不全におけるANP、BNPの分泌部位の検討と各種心疾患の病態生理におけるANP、BNPのかかわりあいを研究することにある。まずANP、BNPの分泌部位の検討の結果、ANPは心不全の軽症例では主に心房から分泌されるが、重症度に伴い心室からも分泌されること、一方、BNPの分泌部位は重症度にかかわりなく常に心室が主体であることが示された。これは心不全におけるANP、BNPの巧妙なdual natriuretic peptide systemを示すものである。梗塞心筋においてさらに詳細に分泌部位を検討した結果、梗塞周囲の残存心筋からのBNPの分泌が著しいことが判明した。この様に心臓から著しく分泌されたANP、BNPは心不全時の血行動態を改善させる方向に向かわせるのみならず、心臓自身の心室再構築に対しても抑制的に作用している可能性が示唆された。さらに他の疾患との関係では、急性心筋梗塞でBNPが著しく分泌されること、また急性心筋梗塞の前段階である不安定狭心症で既にBNPの分泌が始まっていることが示された。またBNPの血行動態や冠血流量に及ぼす影響も検討し、ANP、BNPが多くの心疾患の病態生理に深くかかわっていることが示唆された。
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