1)慢性心不全患者(弁膜症や先天性心臓病による23例)を対象に手術前後に下肢の反応性充血流と運動耐容機能を測定した。その結果、術後に血管拡張機能が改善した例ほど術後に運動機能が改善した。さらに、術後一ヶ月以内でも血管機能が回復した例(運動効果とは考えにくい)でも明らかに運動機能が改善した(研究発表欄参照)。 2)同様に、NYHA分類2以上の11例を対象に心不全の回復前後(開心術前後)に前腕血管機能(アセチルコリンとニトロプルシドによる)を検討した。その結果、内皮依存性血管拡張反応能を示すアセチルコリンによる血管反応の改善度と運動耐容能(最大酸素摂取量)との間に有意な相関関係が見られた(研究発表欄参照)。 以上から、末梢血管機能の改善程度と運動機能の回復程度の間には関連性が存在する。われわれは以下の仮説を想定した。すなわち、心疾患による易疲労感や動悸出現のため安静習慣となり、運動しないため末梢血流が慢性的に低下し、血管内皮のshear stressの低下が持続する。これは内皮機能異常(一酸化窒素やプロスタサイクリンの産生低下)をひきおこし、流依存性血管拡張能が低下すると推定される。以上の末梢血管機能の低下は運動時の骨格筋血流の低下すなわち運動耐容能低下の原因となる。この悪性サイクルを絶つためには内皮機能を改善させることが重要と考え、平成8年度にこの治療法を模索する予定である。
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