再灌流性不整脈の発現に種々の細胞膜イオン交換系が関与することが指摘されている。Ladzunskiらは虚血中に細胞内に蓄積した酸(H^+)は、再灌流のさい細胞膜Na^+/H^+交換系の作用でNa^+流入と共役して排出され、この結果生ずる細胞内Na^+濃度上昇がNa^+/Ca^<2+>交換系をCa^<2+>流入の方向に駆動せしめ、calcium overloadをもたらすとの仮説を提唱した。我々はこれまで細胞外液pHの正常化を遅延させると再灌流性不整脈の発現が抑制されることを、酸性再灌流(AR)を用いたラット摘出灌流心モデルにおいて証明してきた。本年度の研究ではさらに上記仮説、とくに細胞内Na^+濃度調節機能の重要性を検証する目的で、心筋のNa^+/K^+-ATPase活性を測定した。AR(pH6.6)を行うと、その持続時間の長短によらず再灌流性心室細動(VF)の発現は抑制される。しかし引き続き灌流液pHを7.4に正常化すると、2分以内のAR群では高率にVFが出現し、より長期のARの後にpHを正常化させても新たな不整脈は惹起されなかった。平行実験にて左室自由壁のNa^+/K^+-ATPase活性を細胞化学的に測定すると、虚血の結果低下した同活性は再灌流開始と共に再上昇し、2分以上経過した後に虚血終了時に比し有意な回復を示した。すなわち再灌流に伴ってNa^+/H^+交換系を介してNa^+が流入しても、再灌流からすでに一定時間が経過しNa^+排出系(Na^+ pump)がその機能を回復していれば、Na^+は必ずしも再灌流障害憎悪因子としては働かず、逆に2分以内のARでみられた如くNa^+ pumpの機能回復が不十分なうちに灌流液pHの正常化が生ずると、細胞内に流入したNa^+は上述の仮説に従ってNa^+/Ca^<2+>交換系を通じてCa^<2+>流入を引き起こし、催不整脈作用を発揮するものと考えられる。
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