研究概要 |
再灌流性不整脈の発現には細胞内Ca^<2+>過負荷が関与する。その機序として虚血中に細胞内に蓄積したH^+が細胞膜Na^+/H^+およびNa^+/Ca^<2+>交換系を介してNa^+、Ca^<2+>流入を惹起すると考えられている。我々はこれまでラット摘出灌流心モデルを用い、酸性再灌流、すなわち細胞外液pHの正常化遅延が再灌流性心室細動(VF)を抑制することを証明してきた。2分以内に灌流液pHを7.4に正常化すると、この時点で高率にVFが出現するが、2分以上酸性再灌流を持続したのちにpHを正常化させても新たな不整脈は惹起されなかった。もう一つの細胞内Na^+濃度調節機構であるNa^+/Ca^<2+>-ATPase活性を左室自由壁の虚血域にて細胞化学的に測定すると、虚血中は同活性は著しく低下するが、再灌流後は再び活性は上昇し、2分以上経過したのちに虚血終了時に比し有意な回復を示した。これはNa^+/H^+交換系を介して流入したNa^+は、Na^+/Ca^<2+> pumpが未回復の状態でのみ不整脈憎悪因子になることを示している。次に我々は細胞内Ca^<2+>過負荷が主病態を演ずる虚血性プレコンディショニング(IP)に注目し、これが虚血後の心筋収縮障害を軽減する機序としてアンギオテンシン(AT)が関与するか否かを検討した。実験モデルとしては従来と同様のラット摘出灌流心を用い、左室圧をモニターしつつ25分虚血、引き続き30分の再灌流を行った。IP群では25分虚血に先立ち5分間の虚血・再灌流を2回施行、AT群ではこれに代わり0(対照群)、0.01、0.1、1、10μMのATで心筋を灌流した。再灌流30分後の左室発生圧回復率(虚血前との対比)は対照群に比しIP群、0.01,0.1,1μMのAT群で有意な回復を示した。すなわちATはIPに匹敵する心保護作用を有するが、その作用は用量依存的でなかった。これはATのプレコンディショニング作用にさらに他の要素が介在することを示唆しており、今後解明されるべき課題となる。
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