研究概要 |
平成7年度の研究結果より、Na^+-H^+交換系の特異的阻害剤である5-(N,N-dimethyl)-amiloride(DMA)が、開胸ブタ虚血再潅流モデルで心筋壊死をほぼ100%予防する事が証明された。平成8年はこの壊死予防効果が、虚血の改善によるものか、または再潅流障害の予防によるものかを評価するため、DMA投与を再潅流5分前に行い、壊死抑制効果があるかを検討した。平成8年における10頭での検討では、治療群で梗塞巣の縮小傾向を認めたが統計学的なパワーを増すため、本年度はさらに各群2頭ずつ実験を追加し計14頭で検討した。実験プロトコールは平成8年度と同様である。 結果:血行動態、局所壁運動障害に関しては治療群、対照群共に有意な差を認めなかった。心室性期外収縮に関しても、総数、心室頻拍数、心室頻拍持続時間、心室細動発生頻度のいずれにおいても両群間に差を認めなかった。左室における虚血域の大きさは治療群で33.07±7.58%、対照群で27.35±6.19%と有意差を認めなかったが、心筋梗塞サイズは治療群で10.34±7.12%、対照群で42.26±18.78%と有意に治療群で縮小していた(p<0.05)。これらの結果より、DMAは、再潅流時に発生する心筋壊死を抑制する事が示されたが、その効果は虚血作成直前からの投与のほうが、再潅流直前投与よりも優れていた。これはDMAが、虚血中のNa^+-H^+ポンプにも一部作用している可能性を示すかまたは再潅流前の心筋内DMA濃度が再潅流障害抑制効果に影響を及ぼしていると考えられた。いずれにしろ、虚血再潅流に伴う心筋壊死にはNa^+-H^+交換系が重要な関与をしており、この系の抑制は再潅流療法を行う際に、余分な心筋壊死を減少させ患者の予後を改善する可能性が示唆された。
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