近年、組織レニン-アンジオテンシン系の動脈硬化の発症や進展に関与している可能性が示唆されてきた。また、ヒト動脈壁におけるアンジオテンシン(Ang)IからIIへの変換はAngI変換酵素(ACE)よりむしろキマ-ゼによるものが大きいことが報告されている(ACE :キマ-ゼ様活性比=20:75)。そこで我々は、正常大動脈、大動脈硬化病変、および大動脈瘤において総AngII産生能を測定し、さらにACEとキマ-ゼ様活性の比率について比較検討した。剖検組織(死後12時間以内)と手術標本より得た正常大動脈、大動脈硬化、大動脈瘤の膜分画を調整し蛋白濃度を測定後、10^<-4>MのAngI及び各種添加物(バッファーのみ、Captopril10^<-4>M、 Chymostatin10^<-5>M)を加え、100mMNaClの存在下で15分間インキュベイションしAngII産生量を逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。Captopril又はChymostatinにて抑制されたAngII産生量を測定し、それぞれACE活性、Chymase活性として評価した。その結果、大動脈硬化、大動脈瘤いずれにおいても総AngII産生量(大動脈硬化:3.38±0.95n mol/min/mgprot、大動脈瘤:3.32±0.62)は正常大動脈(1.02±0.18)と比較し有意(p>0.05)な増加が認められた。AngI変換能でACE活性は、正常大動脈6%、動脈硬化5.5%、大動脈瘤0.4%であったのに対してキマ-ゼ様活性は84.5、90.7、94.5%であった。すなわち、大動脈瘤では正常大動脈と比較しキマ-ゼ様活性が有意に増加していた。結論として、ヒトの大動脈病変においては局所でのAngIからIIへの変換能の亢進がみられた。また、このAngII産生にACEよりもキマ-ゼが強く関与している可能性が示唆された。
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