【背景】アンジオテンシン(Ang)IからIIへの変換は、血中ではほぼ100%ACEよるのに対して、近年、ヒト心室においては、その大部分(80%以上)はACE阻害薬で抑制されない、キマ-ゼによることが報告された。我々は、最近、ヒト動脈においても、心室と同様にそのAngII産生の80%はキマ-ゼによることを報告した。しかし、ラットやマウスのキマ-ゼは、ヒトと異なり、むしろAngII分解酵素であることが知られており、動物での薬物効果が、必ずしもヒトに反映されない可能性が考えられる。そこで、今回の研究の目的は、動脈におけるAngII産生にキマ-ゼとACEの果たす役割、すなわち、ヒトにおける健常動脈と粥状硬化の動脈におけるAngII産生能、ACE、キマ-ゼの存在比率について検討し、ヒトにおける動脈硬化進展に対する血管壁RA系の役割を明らかにすることである。 【方法】生前及び術前ACE阻害薬を使用していないヒト大動脈(正常大動脈、粥状硬化大動脈、大動脈瘤の膜分画を作成しAngI、及び各種阻害薬の存在下で37℃、15分間、インキュベイションし、生成されたAngII量を逆相高速液体クロマトグラフィーにて測定した。カプトプリル投与群にて抑制されたAngII産生量をACE活性、キモスタチン投与にて抑制された産生量をキマ-ゼ様活性として評価測定した。さらに正常大動脈及び病変大動脈をACE抗体、キマ-ゼ抗体を用い、免疫組織化学的に検討した。 【結果】粥状硬化、動脈瘤病変では総AngII産生量は、それぞれ4.06【plus-minus】2.7nmol/min/mg prot.(=u)、5.1【plus-minus】2.4uと正常動脈1.11【plus-minus】0.5uに比し有意に(p<0.01)増加していた。その内訳はいずれの病態でも80%以上は、キマ-ゼ依存性であり、ACE依存性のものは少量であった。キマ-ゼによるAngII産生量は動脈瘤病変で正常大動脈に比し有意に(p<0.05)増加していた。免疫組織学的研究では、キマ-ゼは主として大動脈外膜に存在しており、ACEとは存在場所を異
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