先天性免疫不全症は幹細胞に異常により発症する。したがって幹細胞特にリンパ球系幹細胞を移植することにより、根治的な効果が期待できる。本研究では免疫不全症の成因を成すリンパ球系の異常の解析と幹細胞の分化・増殖能について研究を行った。 重症複合免疫不全症ではB細胞の分化成熟の過程で、免疫グロブリン重鎖のCDR3領域での多様性に異常があり、VDDJの再構成の欠如やsomatic mutationが少ないことが示された。 また骨髄移植を行ってT細胞の再構築がなされた症例でも患児のB細胞では特異的抗体産生は行われていない。上記に示したB細胞の異常は継続している。これはT細胞系の機能回復だけではB細胞の分化に十分でなく、B細胞そのものに異常があることを示している。X連鎖SCIDでのIL2Rγ鎖の異常がB細胞の機能的分化にも関与していると考えられた。 幹細胞の分化・増殖能に関する研究では従来用いられている骨髄由来幹細胞のみならず末梢血あるいは臍帯血由来の幹細胞も十分な分化・増殖能を有している。特に巨核球・血小板系への分化は臍帯血が優れている。幹細胞の分離も97%と十分な純度が得られ、GVHの発症予防に有用であると考えられた。またWiskott-Aldrich症候群(WAS)ではリンパ球幹細胞のみならず血小板産生系の異常も判明した。すなわちWASでは巨核球コロニー、血小板産生細胞への分化の異常である。WASではWAS蛋白の異常が原因で発症するが、この蛋白が巨核球の増殖と分化に関与している可能性を示していると考えられた。
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