胎生10.5日のSprague-Dawley系ラット胎仔を用いてNew(1973)らの方法により全胎仔培養を行った。ビスダイアミン50mgを添加した培養ビン中では胎仔の発育はコントロールに比してよくないにも関わらず、心臓形成過程で形態的に明らかな差を認めなかった。添加するビスダイアミンを100mgに増量すると胎仔の発育はきわてめ不良となり、コントロールと比較することは適当でないと思われた。そこで、Sprague-DawleyおよびWisterの2系統の母ラットにビスダイアミンを投与し、それぞれで心奇形発生の頻度に差があるかどうかを検討した。その結果、Sprague-Dawley系では、妊娠9.5日、10.5日、11日に投与した場合に各々35.1%、64.1%、10.5%の奇形発生率であったが、Wister系では妊娠9.5日、10.5日、11日に投与すると心奇形の発生率は各々100%、92.8%、45.6%でラットの系により差のあることが明らかとなった。このため、コントロールおよび実験に使用する系をWisterに変更した。 現在のところ、観察し得た心臓発生過程において、ビスダイアミン投与群やWKY/NCrjラット胎仔とコントロール群との間に形態的な差を認めるには至っていない。しかし、ビスダイアミンを投与したWister系胎仔を検索したところ、コントロールと対比して第3、4鰓弓や第3、4、6動脈弓でのN-CAMの発現の少ないことが明らかになった。今後、これと心血管系との関連について検討を進めていく。また、Wister系ラットはビスダイアミンに対する感受性がSprague-Dawley系より高いと考えられ、Wister系を用いればビスダイアミンが作用する器官や時期がより特異的に示されると同時に、さらに低濃度のビスダイアミンでも予定した実験を遂行できる可能性が示されたと考えられる。
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