1 動物の種が同じでも系が異なれば、化学薬品による心奇形発生率に差がみられる 妊娠9.5日、10.5日、11日のSprague-Dawley系の母ラットにビスダイアミンを投与すると、各々35.1%、64.1%、10.5%の頻度で心血管奇形が生じたのに対して、同じ妊娠日のWister系母ラットに投与した場合には、各々100%、92.8%、45.6%の頻度であった。この結果をふまえ、Wister系ラットを用いて胎仔培養を行った。 2 心血管奇形モデルラットの胎仔培養下での心臓発生の観察 妊娠10.5日のWister系母ラットにビスダイアミン200mgを経口投与し、6時間後に胎仔を摘出してNewらの方法により培養を開始した。同じ妊娠日のWister系母ラットから摘出した胎仔も同様に培養し、コントロールとした。また、同じ妊娠日の先天的に心奇形を生じるWKY/NCrjラットについても同様の検討を加えた。 (1)形態的変化の経時的観察:培養開始24時間後には両者の形態に明らかな差はみられなかったが、48時間後にはビスダイアミン投与胎仔において動脈幹隆起の発達の悪いのが明らかとなった。 (2)心臓発生過程の組織学的検討:ビスダイアミンを投与したラット胎仔の48時間培養後の動脈幹隆起において、HNK-1やN-CAM陽性の間葉細胞がコントロールに比して少ないのが認められた。また、コントロールでは神経堤周囲から第3、4鰓弓や第3、4、6動脈弓内へ連続したHNK-1やN-CAM陽性組織(おそらく移動した神経堤細胞)がみられるのに対して、ビスダイアミン投与ラットではどの時期でも確認できなかった。さらに、WKY/NCrjラットでは、このような形態的および組織学的所見は軽度であった。 ビスダイアミンは心臓に進入する神経堤細胞に障害を与え、正常な動脈幹分割をさまたげるものと推測された。
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