研究概要 |
背景及び目的:免疫器官としての消化管の役割を解明する目的で、まず免疫応答の第一歩として、消化管上皮細胞に細菌、ウイルスを感染させる系を用いて、上皮細胞におけるケモカインファミリーのmRNAの有無と、これらのmRNAから蛋白レベルとしてのケモカインが合成されるのか否か、あるいは合成されるケモカインのパターンは感染刺激の差により違いがあるの否かについて検討した。 方法:(1)培養消化管上皮細胞(Kato III,T84,HT29,CaCo2)にSalmonella typhimurium、ポリオウイルス、RSウイルスを感染させ、培養後3及び18時間で上清ならびに細胞を採取した。(2)採取した細胞からtRNA(mRNA)を抽出し、RT-PCR法によりケモカイン(MIP-1α、MCP-1/MCAF、RANTES、IL-8)mRNAの定性、定量を行った。非感染細胞についても同様の操作を行った。(3)採取した上清からELISA法により蛋白レベルでのケモカインの同定・定量を行った。(4)ポリオウイルス、RSウイルスについては各培養上皮細胞に感染後、経時的にcytopathic effect(CPE)の有無を観察し、さらに上清中のウイルス量について定量した。 結果:(1)培養消化管上皮細胞はconstitutiveにケモカインmRNAを発現していたが、その発現パターンは細胞株により異っていた。(2)全ての細胞株で蛋白レベルでのIL-8は産生されるが、細菌感染刺激でより多く産生された。(3)蛋白レベルでのRANTES、MIP-1αはウイルス感染刺激でのみ産生された。(4)ポリオウイルスによるCPEの有無と蛋白レベルでのケモカイン合成量とは相反した。 考案:細菌あるいはウイルス感染により消化管上皮細胞の産生するケモカインのパターンには差が認められた。このことが様々な感染刺激に対する局所の炎症細胞の動員、さらには炎症反応の差をもたらす原因の一つと考えられた。
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