ミトコンドリア遺伝子異常症では組織内に変異遺伝子がヘテロプラスミ-に存在し、その割合が症状発現に関わる因子である。疾患スペクトラムが拡がった本疾患において変異mtDNAが増幅して患者を形成する機構の解明が重要である。これまでの解析にはすべて細胞集団が用いられてきたが、すべての細胞が同じ動態をとるとは考えられず、1細胞レベルでの解析を行うことを目的とした。MELAS患者のリンパ球を1細胞に分取し、PCR法によりmtDNAを増幅し制限酵素で切断後、変異遺伝子の定量を行った。リンパ球においてはすべての細胞がヘテロプラスミ-に変異遺伝子を有していたが、その割合は細胞毎に異なり幅広く分布し、segregationはされていなかった。SV-40でトランスフォームし、クローン化した培養筋細胞では細胞集団としてほとんどが(95%以上)正常遺伝子あるいは変異遺伝子とホモプラスミ-に近い状態になっており、培養期間の異なる各クローン化細胞を50細胞ずつ1細胞解析したがヘテロプラスミ-を示す細胞や、細胞集団と異なる遺伝子をホモプラスミ-に持つ細胞は見いだせなかった。95%の正常遺伝子をもつクローン化細胞を培養を継続するとほぼ変異遺伝子のホモプラスミ-を示す細胞集団へと急激に変化した。 以上よりMELAS患者のリンパ球ではintracellular heteroplasmyであるが、クローン化した培養細胞ではintracellular homoplasmyに近い状態にsegregationされており、正常ホモプラスミ-に近い状態を示すクローン化細胞内にわずかに残る変異遺伝子は培養を継続することで複製されやすいと考えられた。変化が急激であったので、培養の過程で正常及び変異遺伝子をほぼ半々に持つクローン化細胞を得られず変化の過程を1細胞レベルで解析することは出来ず今後の課題である。
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