走査電子顕微鏡で正常ヒト爪甲の表裏を観察したところ、表面は角化細胞が平坦に重なり合っていたが、裏面は縦に凹凸を示し波状を形成するように重なり合っていた。尋常性乾癬では爪甲の表裏とも角化細胞間に深い溝が認められ、角化細胞が浮き上がっている部分もあった。爪甲の表裏を同じ条件で元素分析を行ったところ、イオウのX線の強度は裏面に比べて表面の方が約2倍強かった。しかし、尋常性乾癬の爪甲では表裏でイオウのX線の強度に差が認められなかった。 正常ヒト表皮と尋常性乾癬、扁平苔癬、尋常性魚鱗癬、掌蹠角化症(Unna-Thost型)のそれぞれの表皮を凍結切片にして、イオウの元素分析を行った。定量化が困難であったため、イオウのカウントを点状密度の変化として観察した。正常ヒト表皮では基底層、有棘層よりも顆粒層、角質層の方が密度が濃かった。しかし、尋常性乾癬の表皮では基底層から角質層まで密度に変化がなく、一定であった。扁平苔癬、尋常性魚鱗癬の表皮では正常ヒト表皮と同様の密度の変化が認められた。しかし、掌蹠角化症の場合には基底層よりも有棘層、顆粒層、透明層、角質層の方が密度が濃く、有棘層、顆粒層、透明層、角質層の間には、はっきりした差は認められなかった。 正常ヒト表皮のカルシウムを検索している時に、カルシウムと関係がある蛋白質の1つであるジストロフィンが角化細胞に存在していることに気付いた。そこで、ジストロフィンに対する抗体を用いて蛍光抗体法と免疫電子顕微鏡法を用いて、ジストロフィンが角化細胞のデスモゾームに局在していることを明らかにした。 尋常性乾癬の表皮でも正常ヒト表皮と同様にジストロフィンは角化細間に染色され、基底細胞の基底膜側には染色されなかった。一方、基底細胞癌では辺縁の細胞よりも中央部の細胞の方がより強く染色された。また、有棘細胞癌では角化傾向の強い部分がより強く染色された。すなわち、両者とも角化が進んだ細胞にジストロフィンの強い染色が認められた。
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