最近の神経内分泌免疫学の進歩には目覚ましいものがあり、各種ストレスや神経刺激が与える、種々の生物現象への多彩な影響が解明されつつある。我々は、各種神経ペプチドと代表的な皮膚腫瘍プロモーターである12-o-tetradecanoylphorbol-13-acetae(TPA)による腫瘍プロモーション刺激との関連について検討した。神経ペプチドとしては、P物質(SP)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、神経成長因子(NGF)、ベータ・エンドルフィン(β-EP)、ソマトスタチン(SOM)について検討した。TPA塗布により、CGRP、VIP、NGF、SOMでは、その皮膚組織中・血中濃度共に変化を認めなかったが、SPでは、組織中、血中共に上昇が認められた。SPでは組織中では、刺激後1-6時間後に起こっており、プロモーション刺激の直接的な反応であろうと考えられた。一方、SPの血中濃度は8-12時間後とかなり遅れて起こっており、皮膚での上昇が反映されているものと考えられた。β-EPの血中での変化は、1-6時間後と早く起こっており、皮膚以外の血球等での産生増加等が考慮された。また、プロモーション過程のマーカー酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)の活性について、各種神経ペプチドの前投与、後投与の効果を検討した。NGF、β-EPでは変化が認められなかったが、SP、CGRP、SOMでは、刺激後3、6、9時間において、最大約60%の抑制を認めた。VIPでは、前投与ではかえってODCを上昇させ、後投与では抑制するという二相性の変化が認められた。ODCmRNAレベルには、いずれの神経ペプチドも影響を与えなかった。また、TPAによる皮膚増殖刺激に関しても、いずれの神経ペプチドも影響を与えなかった。各種神経ペプチドの作用の詳細なメカニズムは今後の課題であるが、以上、皮膚腫瘍プロモーション過程に対して、各種神経ペプチドが何らかの相互作用を有する事が示唆された。
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