ケラチン病の病因はケラチンのネットワーク構造が維持できず、細胞の形態保持が破綻するためであることが最近解明された。そこでこのケラチンネットワークの形成機序に関して、ヘアーケラチン遺伝子を細胞内に導入した場合の内在性ケラチンの構築に及ぼす影響を観察した。PtK2細胞ではヘアーケラチンは大型のリング状凝集塊を形成し核周辺に局在し、また内在性ケラチンのネットワークは崩壊し、ヘアーケラチンの存在するのと同じ核周辺に局在していた。しかしヘアーケラチンと内在性ケラチンは共存することなく、ヘアーケラチンの凝集塊を内在性ケラチンが取り囲む構造を形成してた。ラット表皮細胞では発現したヘアーケラチンは凝集塊を形成せず、細胞質内に一様に分布しており、また内在性ケラチンもその分布には何の影響も認められなかった。しかし詳細に観察すると、ヘアーケラチンと内在性ケラチンの分布は類似しているものの完全に一致しているではなく、ヘアーケラチンは微細な顆粒状に点在し内在性ケラチンと共存していた。 我々の検索はヘアーケラチンがネットワークを形成するには、適切な既存のネットワークに取り込まれる必要があり、もし既存のネットワークが存在しない場合には凝集塊を形成することを示すものである。しかしヘアーケラチンの発現様式に関しては不明な点が多く、特に現在までに毛根の基底細胞層に発現するケラチンは見つかっていない。またどの酸性ヘアーケラチンがどの塩基性ヘアーケラチンとペアを作るのか、更に個々のヘアーケラチンがどの順序で発現するのかも不明である。今後我々が示したものと同様の手法を全てのヘアーケラチンに関して試みることにより、毛根細胞におけるケラチンネットワーク形成の全貌が明かとなり、またこれらの検索はケラチン病の病態形成に関しても基礎的知見を与えるものと期待される。
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