研究概要 |
近年,チロシナーゼに関連するタンパクであるTRP1とTRP2が黒色のユ-メラニン生成に関与することが,遺伝子レベル及びタンパクレベルで明らかにされた。特に,TRP1はbrown遺伝子座の産物であり,5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸(DHICA)酸化活性を有すること,TRP2はslaty遺伝子座の産物であり,ドーパクロームからDHICAへの異性化を触媒する酵素と同一であることが示された。これら3種の酵素の協調的な発現により黒色のユ-メラニンが生成する。マウスの体毛においてはTRP1とTRP2の変異によりそれぞれ茶色(brown)と灰色(slaty)系のユ-メラニンになることがわかっているが,マウスの毛色メラニンの性状はメラニンの構造の複雑さ,その不溶性のためにほとんど解明されていない。そこで先ず,我々はHPLCを用いる特異的な定量法と新規に開発した比色法によるユ-メラニン定量法を用いて,遺伝的な背景の明確なマウスの体毛について,全メラニン量,ユ-メラニン量,フェオメラニン量,高分子ユ-メラニン量などを測定した。その結果,brownのメラニンはblackとDHICA含量は同じであるが,分子量が小さいこと,slatyのメラニンはDHICA含量がblackの1/5であることを明らかにした。遺伝的背景の明確なヒツジの体毛及び種々の色調のヒト毛髪メラニンを上記に手法で化学的に分析した結果,ヒトの毛髪のユ-メラニンはDHICA含量が低いこと,ヒトやヒツジの赤毛のフェオメラニンはマウスの黄色のそれとは性状が大きく異なることがわかった。これらの研究過程で,比色法によるユ-メラニンとフェオメラニンの簡便な同時定量法も開発した。続いてチロシン,ドーパ,5,6-ジヒドロキシインドール(DHI),DHICAをチロシナーゼで酸化し,得られた合成メラニンの性状を化学的に分析し,ユ-メラニン中のDHICA含量や分子量の大きさを推定する方法を確立した。
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