本課題の目的は、がんの放射線・抗がん剤治療や近年急速に進歩してきた骨髄移植やXCTによる診断の際に、末梢血リンパ球や血液系の幹細胞にどのような突然変異が生じるかを、DNA塩基配列の変化としてとらえることであった。そのため先ず培養細胞を用いて、ネオカルチノスタチン(NCS)によるヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)遺伝子に起こる突然変異を調べた。比較のために自然突然変異についても調べた。また、これらの変異をX線誘発の突然変異とも比較した。自然変異、NCS誘発変異それぞれについて、50の突然変異体を選択し、そのうち40数個の変異体についてDNA塩基配列の変化を調べた。その結果、小さな欠失、フレームシフト変異、塩基置換変異ともほぼ同じ(塩基置換はNCS誘導変異にやや多くみられ、その他は自然突然変異に少し多かった)割合で起こっていた。また、NCS変異では遺伝子上の部位特異性が見られなかったことから、X線と同様傷のできる場所の特異性はないものと考えられる。一方、それぞれの塩基置換について詳しく調べると、NCS誘発変異に特徴的な変化がみられた。変異した塩基の部位にAGC__-、ACT__-(下線が変異部位)が高頻度にみられたのである。NCSはDNA2本鎖に入り込むことでT塩基に切断が入り、反対側の鎖の2塩基離れたCやT残基が失われることが知られている。おそらく、NCS変異の特徴はこの損傷のできかたによっているのであろう。以上、培養系でNCSに特異的なDNA変化が存在することが証明された。体内で起こるリンパ球の突然変異については現在、実験が進行中である。マウスを用いたリンパ球の突然変異系の確立には手間がかかり、工夫をしている最中である。いずれにしても、NCS変異の特徴が見出されたので、本研究の当初の目的はかなり達成されたと考えている。
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