先進国に於て増加している心臓冠動脈閉塞による致死的心臓発作の予見には、血管狭窄位置とその程度の把握が重要である。安全で安価な方法として、造影剤を静脈に注入し、シンクロトロン放射線を用いて、K吸収端差分法により血管を撮影する方法がある。本研究はMonte Carlo法によりこの時の被曝線量を計算する為の計算機プログラムパッケージの開発を目的とした。 まず、Monte Carlo法を適用するために、確率理論とサンプリング法について研究した。次に、物理過程のシミュレーション法、粒子の輸送を検討した。低エネルギー光子線と物質との相互作用としてCompton散乱と光電効果を考察した。Compton散乱ではKlein-Nishinaの式に、インコヒーレント散乱を考慮して、散乱角と散乱光子と電子のエネルギーを決めた。また、コヒーレント散乱も考慮した。 ヨウ素のK吸収端差分血管造影法では、光子エネルギーは約33keVであるが、将来、X線管球にも応用できるように、数百keVの光子までを調べ、プログラムに取り込んだ。特に、吸収端と特性X線を考慮した断面積の計算と関連データの収集を試みた。最初は均質媒体と単色γ線との相互作用を検討した。Buildup係数の計算にはSpencerとFanoのmoment法を利用することにした。水と筋肉に対する光子の減衰係数とエネルギー吸収係数は文献の表を用い、内挿をした。水に対しては両係数は1MeV以下では余り変わらなかった。 ビームは水平方向に広がり垂直方向に細い単色X線であり、単位光子あたりの被曝線量を、被験者の体内深度に応じて計算できるようにした。計算例を他のMonte Carloコードによる計算結果と比べ、納得の行く一致を見た。被験者の体内臓器の考慮はこれから取込む予定である。又、メニュー方式による照射パラメータの選択も現在進行中である。さらに、将来は、線量分布を視覚的に画像表示する予定である。
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