覚醒剤をラットに反復投与すると、行動効果が次第に増強する。この行動感作という現象は、ヒトが覚醒剤を連用するうちに次第に幻覚妄想を発現する過程に対応し、その類似性から精神分裂病の再発準備性や難治化にも示唆を与える現象である。この現象の成立に関して行動薬理学的に検討した。 1)ラットを狭小ケージに入れて覚醒剤を反復投与し、移所運動の発現を抑制した場合の行動感作の成立を調べたところ、移所運動の増強は認めず、代わって常同行動の増強を認めた。すなわち環境要因によって行動感作の表現型が変わることを示した。 2)ムスカリン性アセチルコリン受容体阻害薬であるスコボラミンを覚醒剤反復投与に併用した場合に、移所運動や常同行動の感作の成立が阻害されることを明らかにし、スコボラミンの作用点は中枢であることを示した。このことは、行動感作の成立にアセチルコリンが関与していることを意味している。また、グルタミン酸阻害薬やタンパク合成阻害薬などが行動感作を抑制するという報告を勘案すると、行動感作は、学習や記憶など他の神経可塑性変化と類似する面があることを示唆している。
|