研究概要 |
精神分裂病患者の滑動性眼球運動障害(smooth pursuit)はHolzmanらによると、患者の約80%に認められ、その責任領域とし前頭眼野が有力視されている。分裂病患者の眼球運動障害の神経機構を明らかにし、どの伝達物質が関与するかを調べるために、平成7-8年度に以下の実験を行った。ニホンザル2頭にsaccade task,smooth pursuit、前庭入力を加えたVOR suppresion,VOR fixationの訓練を行い、記録のためのシリンダーを左右前頭眼野の直上に埋め込み、エルジロイ電極にて前頭眼野の弓状溝とその近傍から、saccade、smooth pursuit、前庭入力に応答する単一ニューロン活動を記録した。 Saccadeに応答するニューロンは、多数記録されたが、fixationに応答するニューロンは少数であった。Smooth pursuitに応答するニューロンも弓状溝底から多数記録され、多くは眼球速度に対応していた。また、前庭入力を加えた視線速度に応答するニューロンも多数記録された。これらの課題に応答したニューロン60個の最適方向は、水平、垂直、斜め等があった。GABA agonistであるmuscimol 10-30μgをこれらのニューロンの記録された部位にマイクロシリンジにて注入したところ、30分後よりsmooth pursuitの眼球速度が低下し、catch up saccadeの混入が見られた。この所見は、視標の速度が速いほど著明であり、またニューロンの最適方向へのsmooth pursuitが障害された。VOR suppresion,VOR fixationにおいても、障害が見られた。Saccade taskでは、30分後には明らかな障害がなかったが、60分後より、潜時の増加、最高速度の低下、振幅の低下が障害された。Smooth pursuitのmuscimol注入による障害は、精神分裂病患者のsmooth pursuitの障害に類似しており、前頭眼野のsmooth pursuitに応答するニューロンの不活化により説明可能と考えられる。
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