研究概要 |
メタフェタミン(MAP)やアンフェタミン(AMP)などの覚せい剤を長期反復投与した際に観察される逆耐性現象(以下逆耐性と略)は,その出現様式,行動内容の変化及び抗精神病薬への反応性の類似から覚せい剤精神病の発症と再発の生物学的機序に関する研究モデルとされている.逆耐性に最も直接的に関連した神経化学的な変化は逆耐性形成動物に覚せい剤を再投与した際のドパミン(DA)作動性神経終末からのDAの過剰放出である.低用量の覚せい剤はドパミントランスポーター(DAT)に作用してDAを細胞外へ輸送する(交換拡散モデル:FischerとCho,1979)と考えられていることから逆耐性形成時にはDATのDA放出機構に何らかの異常が生じている可能性が示唆されている. そこで今回我々はMAP逆耐性形成後断薬7日目のラット脳線条体を用いてDATに特異的なリガンドである[^<125>I]RTI55の結合実験を行い,逆耐性に伴うDATの変化を検討した.非線形最小二乗法による解析の結果,DATへの[^<125>I]RTI55の特異結合は高親和性,低親和性部位の2つが存在した.解離恒数(Kd)に関しては逆耐性群と対照群との間に有意な差は認められなかったが,逆耐性群では最大結合数(Bmax)の高親和性部位が対照群に比較して有意に増加していた(逆耐性群;0.13±0.06pM/mg wet tissue,対照群;0.06±0.04pM/mg wet tissue p<0.05(t-test)).最近,コカイン誘導体で標識されるDATの高親和性部位はDAT機能を反映することが報告されており,今回の結果はMAP逆耐性に伴ってすくなくとも断薬7日目にはDATの機能が上昇している可能性を示唆するものである.
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