研究概要 |
本年度の研究実績をまとめると、下記のような概要となる。 1)慢性のphosphodiesterase(PDE)IV阻害薬(rolipram,Ro 20-1724)及び選択的noradrenaline再取り込み阻害薬(desipramine,Org 4428)併用前投与によって、急性拘束・慢性variable stress(CVS)によるラット海馬内BDNF,Trk B mRNA発現の有意な低下は、抑制されることが分かった。 2)急性拘束ストレスでは未処置群と比較して、大脳皮質前頭部・海馬内MAP kinase phosphorylationの程度に、有意な差はみられなかった。CVS負荷群では未処置群と比較して、大脳皮質前頭部で有意なMAP kinase phosphorylationの増大がみられた。慢性PDE IV阻害薬・選択的noradrenaline再取り込み阻害薬(SNRI)併用投与によって、大脳皮質前頭部・海馬内MAP kinase phosphorylationの程度に変化がみられなかった。 3)幼児期ストレス負荷ラットで成熟後にCVSを負荷した群では、正常発達後にCVSを負荷した群と比較して、大脳皮質前頭部・海馬内BDNF mRNA発現低下の程度は、有意ではなかったが一層の低下がみられる結果であった。 4)Rolipram(1.25mg/kg)慢性投与では、強制水泳中の無動時間の有意な短縮がみられたが、Ro 20-1724(12.5mg/kg)慢性投与では、無動時間の有意な短縮はみられなかった。 本年度及び昨年度の成果をまとめて考察すると、慢性PDE IV阻害薬・SNRI併用投与では、BDNF mRNA,Trk B mRNAの発現を亢進させる作用はあるが、Trk B受容体以降の細胞内情報伝達系への影響は軽度であることが明らかとなった。従って、本併用投与法による神経細胞保護作用は、BDNF発現亢進による直接作用であり、受容体以降の情報伝達系の活性化による細胞骨格蛋白の変化などではない可能性が明らかになったと思われる。
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