研究概要 |
平成9年度の研究実績をまとめると、下記のような概要となる。 1)Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)mRNA発現の有意な亢進がみられた、phosho-diesterase(PDE)IV阻害薬(rolipram,Ro 20ー1724)および選択的noradrenaline(NA)再取り込み阻害薬(desipramine,Org 4428)の慢性併用投与下での、BDNF情報伝達系の活性化をラット大脳皮質前頭部(FC)・海馬(HP)内で検討した。その結果、trk受容体のtyrosine kinase phosphorylation,MAP kinase phoshorylationの亢進といった、BDNF情報伝達機能活性化を示す所見が得られた。2)胎生期ストレス負荷ラットで成熟後に慢性variable stress(CVS)を負荷した群では、正常発達後にCVSを負荷した群と比較して、FC・HP内BDNF mRNA発現減少の程度は、有意ではなかったが一層の減少が見られる結果であった。3)PDE IV阻害薬と選択的NA再取り込み阻害薬の慢性併用投与によって、FC・HP内trk B mRNA発現の有意な亢進が得られた。4)CVS負荷によって、FC・HP内trk B mRNA発現は、正常対照群に比して有意に低下する結果であった。5)胎生期ストレス負荷ラットで成熟後にCVSを負荷した群では、正常発達後にCVSを負荷した群と比較して、FC・HP内trk B mRNA発現の有意な差はみられなかった。6)抗うつ作用が報告されているwater-soluble forskolin derivativeであるNKH 477の急性・慢性投与によって、FC・HP内BDNF,trk B mRNA発現の有意な亢進が得られた。 これまでの研究結果をまとめて考察すると、シナプス部NA濃度亢進→cAMP濃度増大→proteinkinase A活性化→cAMP response element binding protein phosphorylation→BDNF発現増大(ストレスによってBDNF発現は低下しており、うつ状態ではBDNF発現低下が予想される)→trk受容体 tyrosine,MAP kinase phoshorylation亢進という一連の情報伝達過程の変化が、抗うつ左往と密接な関連を持つことが分かった。同時に、PDE IV阻害薬と抗うつ薬の併用投与やwater-soluble forskolin dervativeであるNKH477は、遷延性うつ病や外傷後ストレス症候群などの治療に有望であることが示唆された。
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